トトロじゃない!(『太平記』より)

こんにちは。今日は日本古典文学大系より『太平記』です。

突然ですが、宴会(今は難しいですが)には余興がつきものだと思います。その余興の中に、カラオケというものがあります。みんなで歌を歌うのは楽しいですが、相手との距離感が問題です。目上の人の歌を聴くときって、どんな態度を取ればいいのか、わからなくなるときもありますよね。

昔の人も、宴会の際には余興があったそうで…

或夜一献(いっこん)の有けるに、相摸入道数盃(すはい)を傾け、醉に和(か)して立て舞事良(やや)久し。

昔の人は、お酒の席で舞を舞っていたんですね。余計酒が回りそうな気がしますが。

【その舞は】若輩の興(きょう)を勧る舞にてもなし。又狂者【芸人】の言を巧みにする戯(たわむれ)にも非ず。四十余の古入道、酔狂の余に舞ふ舞なれば、風情可有(あるべき)共(とも)覚ざりける所に、

酔った上司の歌がきちんと聞けることなんて、めったにないことです。というより、カラオケ自体難しいものですよね。きちんと聞けないから、より酔いが進むというものなのかもしれませんが。

何(いづ)くより來(きたる)とも知(しら)ぬ、新坐・本座【所属チームの名前】の田楽【芸能の名前。その芸をする人】共十余人、忽然(こつぜん)として坐席(ざせき)に列(つらなっ)てぞ舞歌(まひうた)ひける。其(その)興(きょう)甚(はなはだ)尋常(よのつね)に越(こえ)たり。暫有(しばらくあっ)て拍子(ひょうし)を替(かへ)て歌ふ声を聞けば、「天王寺のやうれぼしを見ばや【見たい】。」トゾ拍子(はやし)ける。

いたたまれない空気に包まれていたところに突然、田楽という芸を行う人が座に加わって、異常なもりあがりを見せた、と書いてあります。今で言ったら、突然ジャニーズが乱入してきてメドレーを始めたみたいなものでしょうか。それは、盛り上がるのも無理は無いですね。しかし、この人たちは誰なのでしょうか。

或官女(かんじょ)【侍女】此(この)声を聞て、余りの面白さに障子の隙(ひま)より是を見るに、新坐・本座の田樂共トと見へつる【見えていた】者一人も人にては無りけり【人ではなかったことだ】。

或(あるいは)觜(くちばし)勾(かがまっ)て鵄(とび)の如くなるものあり、或は身に翅(つばさ)在(あっ)て其(その)形山伏の如くなるもあり。異類異形の媚者(ばけもの)共が姿を人に変じたるにぞ有ける。

 

メイドさんが「盛り上がってるなあ」その姿を覗いてみると、偉い人たちは化け物と一緒に踊っていたのだった、という話しでした。意外に気づかないものですねえ。

今(2021年)では行けませんが、また世の中が平和になったらお酒を飲みに行きたいなあと思いました。そういう時に、勢い余ってカラオケに行くのも良いかもしれません。下手な歌で周りの人の酒を進ませるのも一興。突然偽ジャニーズ化け物が乱入してきて大盛り上がりするのも、また一興です。(一興ですか?)