怪談への返し方に困ったときは(『近世随筆集』より)

おとといの歩数は12896歩でした。今日は日本古典文学大系96番の『近世随筆集』から『孔雀楼筆記』です。初めて開きましたが、思わず笑ってしまったので、冒頭の部分を載せます。随筆なので、どこから読んでも大丈夫(でしょう、多分。)

 

名山霊地ニハ、必ズ奇異ナルコト多シ。一概ニ理ヲ以テ決断スベカラズ。世ニコレヲ魔所トイフ。カノ天狗ナル者ノ有無、予【筆者】ガ如キ短才ノ知ル所ニ非ズ。

今でいうパワースポットについての記事みたいです。

 

或人予【筆者】ニ語テイワク、

「某ノ地某ノ山ハ、所謂魔所ニテ人登ラズ。一膽勇【大胆な勇者】ノ人アリ。人ノ止ルヲキカズ登山ス。絶頂ニ至ラントスルコロ、急風ニ吹レテ、地ニタヲレ気絶ス。頃(シバラ)ク有テ正気ヅキ、ヲソレテ【恐れて】下山ス。山ヲ下リ尽セバ、山川邑(イウ)里ノ景色、モト來シ路ニ非ズ。人ニタヅヌレバ【尋ねたら】、他国ニテアリシ。コレハ実実ノコト【実際にあったこと】ニテ、カツテ偽ニテナシ【嘘ではない】。コレイカナル理ゾヤ」 

今でいう、「本当にあった怖い話」でしょうか。常々思っているのですが、人に怪談を持ちかけられた時の正解の返しって何なのでしょう。私はいつも「そうだね」と言いながら、「だからどうしたというのだろう」と思ってしまいます。話が逸れました。筆者の返しは…

予「知ラズ」ト答フ。

ぶっきらぼー。;つД`)

何故、「知らず」と言うのでしょうか。

 

【或人】再三問テ止マズ。ワレ曰、
「造化微妙【天地万物の創造】ノ理、予ガ如キ賎儒(センジュ)ノ知ル所ニアラズ。タヾ我等身ノ上ノコトヲ話シ申スベシ。
【私は】或年暑ニ苦ミ、柱ニヨリテ箕踞(キキヨ)ス【座っていた】。

イト小蟲(チイサキムシ)アリ、ソロソロト足ヘハイノボル。ハイノボリテハヲチ【落ち】、ヲチテ【落ちて】ハハイノボルコト二三度セシガ、段々ニノボリ、膝ブシノ上ヘ至ル。
【私は】息ヲツメテフツト吹ク。一間バカリアナタヘ【向こうへ虫は】吹キトバサレ、イトウロタへ驚タル体ニテアリシ。【私は】知ラズ彼【虫】ガ心ノウチ、イカバカリ奇異ノコトニアヒシト思ヒタルヤ。彼【虫は】我【筆者の】全身ヲ見ルコト能ハジ【見ることが出来ないだろう】。若シ【虫が】予ヲ見得ニモセヨ【見ることが出来たとしても】、【もし私が】フスマ【ふすま】障子ナドノスキ【隙間】ヨリ【虫を】吹トバサバ、益々奇異ナルニ非ズヤ【ますます不思議なことではないか】」。
カノ人ノ曰、「誠ニ君ノ言ノ如シ」。

 

 

うーん、虫を吹き飛ばすあたり、なかなかひねくれた性格をしているような気がします。しかし、夏の日に虫と戯れる姿はなんだか可愛らしいというか、思わず笑ってしまいました。


本当にざっくり話を要約すると、「世の中に不思議なことはあって当たり前だ」ということになるのでしょうか。確かに虫から見たら人間ってどう見えるんでしょうかね。次からは、私もこういう風に答えるようにします。こういう面白いことは、書き残しているからこそ残るんだなと、そう思いました。