しがみつく鴨がちらつく(『今昔物語集四』より)

昨日の歩数は10025歩でした。今日は日本古典文学大系25番の『今昔物語集四』です。誰が悪い?という話がありました。

京都に身分の低い侍が居ました。妻がお産をして、その産後の肥立ちをよくするための食べ物が欲しいと思いましたが、稼ぎが少なくて手に入れることが出来ません。そこで侍は、池に行って鳥を取ろうと思い立ちます。池には鴨の夫婦が居ました。嫌な予感がしますね。

 

鴨雌雄(ノメドリヲドリ)、人有トモ不知(シラズ)シテ【侍の】近ク寄来タリ。男【侍】此レ【鴨】ヲ射ルニ雄(ヲドリ)ヲ射ツ。【侍は】極テ喜ク思テ、池ニ下テ鳥ヲ取テ、急テ家ニ返ルニ、日暮ヌレバ夜ニ入テ来レリ。

 

侍は鴨の、夫の方を射殺し、獲物をもって家に帰ります。鴨は明日調理しようね、などと妻と話していると、夜中にどこからか音がします。

 

夫【侍】、夜半許ニ聞ケバ、此ノ棹ニ懸タル鳥【鴨の夫の死体】フタフタ【擬音】トフタメク。然レバ【侍】「此ノ鳥【鴨の夫】ノ生キ返タルカ」ト【侍は】思テ、起テ火ヲ燈シテ行テ見レバ、死タル鴨ノ雄ハ死乍【生き返っておらず】棹ニ懸テ有。傍ニ出タル鴨ノ雌(メドリ)有リ、雄(ヲドリ)ニ近付テフタメク也ケリ。

 

 

音の正体は、夫を取られた鴨の妻でした。鴨の妻はどのようにしてここまで来たのでしょうか。

 

【侍】「早ウ、【この鳥は】昼池ニ【夫と】並テ贄ツル【餌を漁っていた】雌(メドリノ【私が鴨の夫を】射殺シヌルヲ見テ、【鴨の妻は】【鴨の】夫ヲ恋テ、【私が鴨の夫の死体を】取テ来タル【棹の】尻ニ付テ、此ニ来ニケル也ケリ」ト思フニ、男忽ニ道心●(オコリ)テ、哀ニ悲キ事无限(カギリナ)シ。

 

 

鴨の妻は、夫が連れ去られるのを見て、しがみついてきたのでした。鴨(妻);つД`)

この話って誰が悪いでもないですよね。鴨だって餌を食べていたんだし、川魚の夫婦を食べることもあったかもしれません。川魚の夫婦もプランクトンの夫婦を食べていたかもしれません。(もしプランクトンに夫婦があるのなら)それでも、なんとなく罪深い感じもします。誰が悪いわけではないが、しかしそういう事と無縁ではいられない。そういう感じがします。


先日フランス料理で鴨のパイ包みなるものを食べました。美味しかったです。しかし注文する時に少しこの話がちらつきました。それでも、「注文できるってことはもう死んでるんだよな、だったら食べないとな」と思って注文しました。今晩もこれからサバの味噌煮を食べる予定です。


お互いが食べなくて済むならそれに越したことはありませんが、なかなか難しいことだと思います。それでも、生きているだけで何かに糧になってもらっていることを自覚するか、しないかは選べるのだと思います。ずっとは難しいかもしれませんが、棹に必死にしがみつく鴨の姿を想像して、生きてみてもいいのかなあと思いました。