羽ぐくむ(『万葉集四』より)
昨日の歩数は18707歩でした。今日は日本古典文学大系7番の『万葉集四』です。
新羅(しらき)に遣はさえし使人ら別を悲しびて贈答し、また海路にして情(こころ)を慟(いた)み思を陳(の)ぶ。所に當りて誦する古歌をあわせたり
武庫(むこ)の浦の入江の渚鳥(すどり)羽(は)ぐくもる君を離れて恋に死ぬべし(巻十五・三五七八)
大船(おほぶね)に妹(いも)乗るものにあらませば羽(は)ぐくみ持ちて行かましものを(巻十五・三五七九)
巻十五には天平八年の新羅に派遣された使節たちが詠んだ一群が残されています。その中からはじめの二首を持ってきています。
まず一首目です。武庫(むこ)の浦は地名で、兵庫県の武庫川のあたりの海です。その入江の洲にいる鳥が「羽(は)ぐくもる」、羽に包むようにいてくれたあなたと離れて、恋に死んでしまいそうだというような歌かと思います。
次に二首目です。大船は、私(使節たちが乗る船)に妹(いとしいあなた)が乗るものであるならば、「羽ぐくみ持ちて」一緒に連れて行くのになあ、それが出来なくて残念だというような歌かと思います。
どちらも、「羽ぐくむ」という言葉が印象に残ります。なんだかとっても、お互いを大事に大事にしているような感覚があります。あったかそうな言葉です。
この使節たちの旅は悪天候や疫病に悩まされる大変過酷な旅になるみたいです。今の海外旅行とはわけが違います。そんな旅に出る前になったら、愛する人をあったかい羽根で包んであげたい気持ちになるというのは、個人的にはよく分かります。今の世の中では、執着に近い「過保護」は問題にされる場合があります。しかしながら、自分がいつ死ぬとも分からない世の中で、愛する人に「執着」するのは、また自然なのかもしれないと思います。そうした旅を前にして、もう一度愛する人を「羽ぐくむ」ことがしたい、しかし、この使節にはもうそれは出来ないかもしれない。
私も、暮らしが続いていく限りは、周りの人を大事にしたいなあと、そう思いました。